リーダーシップ研究のためには他分野の実務家・研究者の皆様のご参加が必要です(新井敏夫)

2016年4月12日 | 話題提供

日本リーダーシップ学会 理事・副会長
工学院大学 情報学部システム数理学科 教授
新井 敏夫(あらい としお)

   水野会長や日向野先生を始めとする理事の先生方と日本リーダーシップ学会を設立しようという動きが始まったのは次のような理由からでした。リーダーシップ研究には様々な領域の研究者や実務家の広範なご参加が不可欠です。

1.集合知が次世代のリーダーシップ論を生む
   リーダーシップのあり方は組織を規制する制度によって大きな影響を受けます。 例えば上官の指揮権が最も厳重に保護されているのが軍隊組織です。自衛隊法第57条には「隊員はその職務に当たっては上官の職務上の命令に忠実に従わなけ ればならない」と規定されており、反抗または不服従に対しては罰則が適用されます。会社組織の場合も、会社法第349条に「代表取締役は株式会社の業務に 関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する」として、定款または法令によって制限された場合を除いて、代表取締役には広範な業務執行権限が 認められています。企業内部で行われる業務執行の大半は代表取締役の権限の中と言うことができます。
軍や企業では素早い意思決定が必要とされるため、意思決定権限が法律によって強化されています。これに対して平等な議決権を持つ議員の意見をまとめていく 政治的リーダーシップでは、意思決定過程が民意を反映することが理想です。同窓会の運営はどうでしょうか。幹事は善意で集まった対等な個人です。権限関係 はありませんが、この場合でも意思決定を行い同窓会として行動する必要があります。
ガバナンスや内部統制の観点からのリーダーシップ論や組織行動論におけるリーダーシップ論など、リーダーシップ論は組織が従うべき制度に応じた広がりが必 要です。組織研究を行う研究者だけでなく、広範な実務家の参加なくしては研究を遂行することができません。学会は本来、集合知を生み出す仕組みでもありま す。

2.民族的・文化的な分析も必要
    リーダーの機能を、a)目標の設定、b)戦略・戦術(計画)の策定、c)チーム能力の維持向上と考えると、このこと自体は世界のリーダーにとって共通で す。しかしリーダーがその機能を果たすために組織に働きかける場合、リーダーの行動は民族性や伝統、文化によって大きな影響を受けます。極端な例をあげる と、同じ業界に属するA社とB社では、企業文化が大きく異なっていて同じ働きかけを行っても組織の構成員の受け取り方や印象に大きな差があることもあり得 るのです。
リーダーの行動のうちどこまでが共通の部分で、どこまでが組織の伝統に配慮した行動であるのか、歴史的・民族的・文化的な側面からの研究者による分析と、実務家の事例研究が欠かせません。

3.リーダーシップとマネジメント
    リーダーシップの近接領域にマネジメントがあります。リーダーシップについて研究を行うのであれば、マネジメント研究との境界を明らかにする必要がありま す。船を動かすことを例にあげると、航海の目標や航路を示すのがリーダーシップ、リーダーの示した目標や航路に従って正しく船を運行するのがマネジメント と考えることができます。しかし実際に組織を率いる人は、リーダーであると同時にマネジメントでもある場合が大半です。両者の行動は重なり合っています。 マネジメントの研究者や実務家の参加を得て、個々の事例研究を積み重ねる必要があります。
以上のようにリーダーシップ研究には、多くの領域の研究者や実務家の参加が不可欠です。リーダーの育成に関心をお持ちの多数の皆様のご参加をお待ち申し上げます。